「それにしても、初対面の松下さんの耳の大きいことには驚いた。まるで大きな両耳に上品な顔が付いている、そんな感じさえする耳だった。その後、この大きな耳が、私のような若造の話にもいつも謙虚に、一言も逃さないようにと傾けるための耳であることを、幾度となく思い知らされた」
「アメリカ滞在中の3年間、何度か帰国して松下さんに報告を行ったが、松下さんの姿は、まるで先生の話に真剣に耳を傾ける生徒そのままであった。『ああ、そうですか、そうですか』と丁寧に応じていることに気づき、思わずハッとしたことも一度や二度ではない」
【出典】
『最終講義 松下幸之助から学びて、いま思う日本の行く末』
【感想・論評・補足】
松下幸之助は耳学問の達人であったと言われるが、それを裏付ける証言である。息子や孫の世代の若者の話を一言一句真剣に聞く。なかなか出来ることではない
経歴(プロフィール)
■松岡紀雄(まつおか・としお)
日本の経営学者。神奈川大学名誉教授。専門は、海外広報論、企業市民論、英文出版・編集、アメリカ社会事情、ボランティア論、市民協働。「企業市民」の提唱者。英文国際比較統計集「Japan 1980」シリーズの生みの親。1940年9月14日生まれ。愛媛県松山市出身。京都大学法学部卒業後、松下電器産業に入社。松下幸之助の下でアメリカPHP研究所初代代表や英文国際版PHP編集長等を歴任。神奈川大学経営学部創設にかかわり、同学部及び同大学院経営学研究科教授