川上徹也
「松下幸之助創業者の大切な教えの一つに『経営はお金だ』という考え方がある」
「これは誤解があってはならないが、創業者は『金はどこまでも道具であって、目的は人間生活の向上にある』と言われ続けてきた。ただ経営の結果として一時的に投資などで減ることはあっても、最終的に『お金=キャッシュ』が貯まっていかない経営はどこかおかしいというものである。キャッシュフローが重要視される時代に、『経営はお金』の考え方はあらゆる企業にとってもそうだと思うが、松下の場合、その思想が徹底しているように思う」
「経営学のテキストなどでは『経営とは将来キャッシュフロー(現金収支)の創出である』と定義されている。キャッシュフロー経営とは結局、創業者の言う『お金大事』の経営にほかならない」
「2008年のリーマン・ショック以降、企業経営の価値観は『キャッシュ・イズ・キング』に大きく変化してきた。お金を生み出す事業を育てるには現状を常に改革し、ビジネスモデルを効果あるものに変革していく必要がある」
「その戦略の根本にあるのが、貸借対照表(バランスシート=B/S)を軸にした経営である。経営革新は損益計算書(プロフィット・アンド・ロス=P/L)からは生まれてこない。P/Lから生まれるのは改善にすぎず、抜本的に企業体質を変化させるには、トップが主導しB/Sの構造を変えていくことが不可欠である」
「『貸方を律して、借方を攻める』。これはB/Sの健全化に対する、伝統的な考え方である。資金の減少を引き起こす流動資産の増加を、支払いを送らせるなど流動負債の増加で逃げてはいけない。負債に対する管理を厳しくし、借り方の在庫の削減や売掛金の早期回収に努力し、自己資金を充実させようということである」
【出典】
『女房役の心得』
【感想・論評・補足】
松下幸之助はバランスシートを見ると、担当者に『現金はいくら増えたのか?』と追求。売り上げや利益が増えても満足せず、キャッシュフローという本質に焦点をあて、常に現金回収・現金支払いの原則に徹底的にこだわり続けたという
経歴(プロフィール)
■川上徹也(かわかみ・てつや)
松下電器産業株式会社代表取締役副社長。財務担当役員(CFO)。松下経理大学(現パナソニック株式会社経理大学)学長